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子供の夜間の咳:喘鳴とどう違うのか?
乳幼児で激しい咳で悩まれる方はたくさんおられます。中には喘息があるために激しい咳が出現することもあります。しかしこの年齢では正確に肺機能を測定するのは困難です。3歳頃にモストグラフで肺機能を測定することは可能ですが、全員上手に出来るとは限りません。喘息とははっきりと診断できない夜間の咳が激しい患者さんが将来喘息になるのか否かは大変関心があります。
この研究では、夜間に慢性の乾いた咳嗽がある小児は喘息の変異型であるという仮説をほとんど裏付けることができませんでした。またこの論文から、喘息の危険因子は両親の喘息、大笑い・大泣きでの咳嗽、6歳以後のアレルギー性鼻炎、ペットの飼育であることも解りました。
当院ではこの事項にいつも注意しながら診療しています。
ダニの舌下免疫療法は現在広くアレルギー性鼻炎に対して行われています。著者等はダニの舌下免疫療法は気管支局所においてウイルス増殖を阻止するIFN(インターフェロン)が増加させて、感染による喘息の悪化を防げる可能性があることを示しており、さらに著者等は治療24 週後には気道抵抗が改善したことを報告したとのべています。日本ではダニの舌下免疫療法はアレルギー性鼻炎でのみ治験されていますが、実際には喘息にも効果があることが海外文献で明らかにされており、喘息にもこの治療法が勧められています。また著者等はダニがウイルスを抑制するIFN(インターフェロン)の産生を抑制することも別の雑誌に報告しています。このことからもダニの環境整備も重要です。
Christian Woehlk
Am J Respir Crit Care Med Vol 207, Iss 9, pp 1161–1170
乳幼児の咳の原因にGERD(胃食道逆流症)があります。この治療によく使用されるのがH2ブロッカーやPPI製剤(プロトンポンプ阻害薬)です。この咳を治療するために使用した薬剤が、逆に喘鳴や喘息発症のリスクになるかもしれないという文献です。教科書には乳幼児の喘鳴、小児・成人の咳の原因がGERDである場合があります。GERDであることを証明するにはpH測定器を食道まで挿入してモニターする必要があります。しかし咳が長引くからと言ってpHモニターするには少し抵抗があります。そのために取りあえず制酸剤を投与して効果があればGERDを疑うことになります。ところがこの文献では制酸剤を投与すると逆に、将来喘鳴・喘息を増加させる可能性があるかもしれないと結論しています。その理由は腸内細菌叢を乱している可能性があるからだそうです。
抗コリン薬は気管支喘息治療において、特に成人領域にて急速に使用されるようになりました。抗コリン薬は気管支拡張作用がβ2-刺激剤に比してマイルドなために、あまり見向きもされない時代がありました。しかし喘鳴は副交感神経作用を活発化させて、末梢神経からアセチルコリンを放出し、気道の過敏性と過剰な粘液産生を引き起こします。この作用を抑制するために、成人では副腎皮質ホルモンと気管支拡張薬の吸入にて効果が不十分な喘息患者を対象に抗コリン薬を追加して吸入する治療が一般的になってきました。小児においても、主に海外でその効果が確かめられてきています。またこの薬剤の副作用は尿閉・急性緑内障・腸閉塞がありますが、吸入での投与量が少量であるためにこれらの副作用は殆どありません。
日常診療において0歳から3歳までの喘鳴の原因の大半はウイルスによるものです。この喘鳴に対する治療は小児科医を悩ましています。この症状に対して吸入ステロイドを使用するほどではない場合、選択する薬剤は限られています。今回紹介する論文は0歳から3歳未満の喘鳴と息切れの症状を有する患者に対して抗コリン薬である臭化チオトロピウム吸入を間欠的に投与してその効果を調べたものです。
短鎖脂肪酸とは、油脂を構成する成分のひとつで、数個から数十個の炭素が鎖のように繋がった構造をしています。そのうち炭素の数が6個以下のものが短鎖脂肪酸と呼ばれ、酢酸、プロピオン酸、酪酸などが含まれます。短鎖脂肪酸は、ヒトの大腸において、消化されにくい食物繊維やオリゴ糖を腸内細菌が発酵することにより生成されます。近年腸内細菌が免疫恒常性において中心的な役割を果たし、喘息、大腸炎、細菌およびウイルス感染を含む炎症および感染に対して重要な役割をしていることが明らかになってきています。短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸)が腸内細菌と宿主細胞と関連しています。短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸等)は腸内細菌によって、食事により摂取した繊維から産生されています。最近では、下気道内の微生物叢の存在が明らかになっています。これら短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸等)は腸内でT制御性細胞を増加させることが知られています。この作用によってアレルギーを制御されます。このような善玉細菌と言われるのがビフィズス菌(ヨーグルト、ビオフェルミン)、乳酸菌(ビオフェルミン)、酪酸菌(ミヤリサン)です。この論文は抗ウイルスの発現に対するSCFA(短鎖脂肪酸)である酢酸、酪酸、プロピオン酸の鼻腔内投与の影響、およびRV(ライノウイルス)感染のマウスモデルとRV(ライノウイルス)感染肺上皮細胞株における酢酸、酪酸、プロピオン酸の影響を研究したものです。
現在吸入ステロイドは喘息の基本治療です。吸入ステロイドを使用することによって喘息は劇的に改善されました。しかし5-11歳における軽症の喘息治療においては、議論があります。米国のガイドラインでは軽症の喘息児では、喘息の発作時に気管支拡張薬のみの治療を推奨しています。しかしGINA(Global Initiative for Asthma Strategy;国際的な喘息ガイドライン)ではでは気管支拡張薬を使用するときは6歳以上の全ての患者において吸入ステロイドを併用することを勧めています。実際発作時に気管支拡張薬のみを使用していると吸入ステロイドを併用しているのに比べて入院・死亡が多いことが報告されています。日本のガイドラインでは軽症間歇型の患者さんは基本的に気管支拡張薬の使用になりますが、この文献のように吸入ステロイドと併用するのも一つの選択しかもしれません。
Carlos E. Rodríguez-Martínez, MD
J Allergy Clin Immunol Pract 2022;10:1562-8
洗浄剤は
洗浄剤は日常よく使用するものです。アレルギー患者にとっては種々の問題を起こします。例えばアトピー性皮膚炎における洗剤・石鹸の影響は昔から知られています。最近はぜん息にも悪影響があることが知られています。この文献は洗浄剤への職業的な暴露が、その子どもにも影響を与えて、子どものぜん息の頻度が増加するというものです。興味深いことに妊娠前・妊娠中の暴露では影響がありますが、出産後ではあまり大きく影響しないようです。
Gro Tjalvin
J Allergy Clin Immunol. 2022 Jan;149(1):422-431.e5.
細気管支炎に罹患後、気管支喘息を数年後に発症することはよくあります。どの人がぜん息を発症し、またはしないのかは、両親のぜん息の既往、アレルギー性鼻炎の併発、アトピー性皮膚炎が合併等に左右されますが、それだけではないようです。この論文は重症に細気管支炎に罹患後のぜん息の発症について、鼻咽頭から採取した検体でぜん息の発症について見たものです。その結果喘息を発症するリスクが大幅に高い高炎症性アミノ酸と低ポリ不飽和脂肪酸を特徴とするメタボタイプを含む、生物学的に異なるメタボタイプが特定されました。この結果から私たちに出来る事は、取りあえず魚をよく食べ、油はしそ油を使用する方が、ある程度のぜん息予防になりそうですです。
アレルギー一般の総論・概説です。知識の整理に役立ちます
コロナウイルス感染症の拡大に伴い気管支喘息発作時の院内でのネブライザー吸入を中止しています。その代わりに定量噴霧式吸入剤+スペーサーにて吸入を行っています。その理由はネブライザー吸入によりエアゾルが発生し、周囲にウイルスをまき散らす可能性があるため二次感染の危険性があります。
喘息疾患のある人はコロナウイルス感染症に罹患すると却って軽症で終わる可能性があるかもしれません。この報告は下の報告と同じく中国からですが、別のアレルギー誌(Journal of Allergy and Clinical Immunology)に掲載されたものですが、この報告でも入院患者で喘息患者が極めて少ないこと、血中のサイトカインがコロナウイルス感染症ではTh1関係のサイトカインが増加していることが報告されています。喘息患者さんはコロナウイルス感染症に対して安心してはいけませんが、一般の人よりも少なくともリスクが高いとは言えないようです。
Risk factors for severity and mortality in adult COVID-19 inpatients in Wuhan Li X J Allergy Clin Immunol. 2020 Apr 12:S0091-6749(20)30495-4 doi喘息疾患の
コロナウイルス感染症(COVID-19)で重症となり入院した患者に喘息患者はそれほどいないことが、欧州アレルギー学会誌電子版に掲載されました。喘息患者さんから喘息の持病があると悪化するのではないかと心配されて質問される方が多数おられます。またNHKのコロナウイルス感染症についてのWEBでも、呼吸器疾患が重症になる因子の一つに挙げられています。この報告は喘息患者さんにとっては参考になります。
閉塞性肺疾患(COPD)はタバコが主な原因で40-50歳頃より症状が出現する疾患と言われてきました。しかし近年小児期より喘息患者、また乳幼児期に喘鳴があった患者さんを追跡したり、動物実験等より既に妊娠中より肺に障害を生じたり、乳幼児期のウイルス感染で喘鳴を来したり、喘息を発症した患者が既に小児期または成人した頃より既に肺機能が低下し、加齢とともにさらに肺機能が低下してくることが明らかになってきています。この論文はその総説です。私は本来喘息が専門でしたので多くの喘息患者さんを診てきました。そのなかからCOPDを発症する患者さんを経験しています。成人病と考えられていた閉塞性肺疾患疾患(COPD)が既に乳幼児期・小児期より始まっていること明瞭になってきています。この論文はその総説です。全訳しましたので、是非参考にして下さい。
Postma DS Risk factors and early origins of chronic obstructive pulmonary
disease Lancet 2015 385 899-909
喘息増悪時の治療は気管支拡張剤の吸入が第一ですが、効果がないときは2-3回繰り返します。それでも改善しないときはステロイドの適用になります。ステロイドはその副作用のために、作用時間が短い(半減期:12-36時間)プレドニゾンが一般的に用いられてきました。その投与期間は5日間です。しかしその味は不味く苦いために小児は服用を嫌がり嘔吐することもしばしばです。一方デキサメサゾンの半減期は36-72時間と長くその分副腎機能抑制が大きいためにプレドニゾンの方が好ましいと考えられてきました。しかしこの論文ではデキサメサゾンでは効果が大きいためにその投与歯間は1-2日であるために結局副作用は同等であると考えられます。しかもデキサメサゾンは味も良いために飲ませやすいのが利点です。しかいこの論文でもそうですが一般に日本で使用される量の5-6倍という大量を用いています。日本で発売されているデキサメサゾンはアルコール(エタノール)が入っているために大量には投与できません。そのために一般にはベタメサゾン(一般名;リンデロン)が使用されています。この論文はデキサメサゾンの方がプレドニゾンよりも入院期間が短く、コストも低く抑えられる上に、味もプレドニゾンよりも良好であるのでデキサメサゾンの方が好ましいと結論しています。
アレルギー疾患(気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎)の患者の10-22%の方はアレルギー検査をしても何も陽性にならないことがあります。そのような人はアレルギーとは何も関係が無いのでしょうか。最近の研究では自然免疫が関係していると言われています。しかし実際はどうなのでしょうか。論文があります。アレルギーの検査をしても陰性の患者さんの家庭を訪問して徹底的に環境整備を1年間行ったところ喘息発作が改善しました。たとえ検査で陽性にならなくてもダニの除去を行うべきでであることが解りました。、
気管支喘息の増悪因子としてウイルスは重要な位置を占めています。特に風邪のウイルスであるライノウイルスは喘息発作を起こす主なウイルスの一つであり、最も重要なウイルスです。しかしこの論文では喘息増悪時に治療しても治療に十分反応しないウイルスはライノウイルスではなくRSウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルスであるとしています。パラインフルエンザウイルスは残念ながら日常の診療では検査できませんが、RSウイルス、インフルエンザウイルスは検査できます。重症発作を起こしたとき、入院の適用になるか否かの目安の一つになるかもしれません。
Joanna Merckx Respiratory Viruses and Treatment Failure in Children With Asthma Exacerbation PEDIATRICS Volume 142, number 1, July 2018:e20174105二酸化窒素は代表的な大気汚染物質です。この論文では学校の教室内で測定した二酸化窒素の値が、生徒の肺機能と8ppb以上で逆相関するとの報告です。二酸化窒素が10ppb増加する毎にFEV1(呼気一秒量)/FVC(強制肺活量)比率が5%減少するとの報告です。姫路市では最も高値の飾磨地区でも2016年(平成28年)平均値は11.1ppbでした。最高の週でも16ppbでした。但しこのデータは学校ではなく大気汚染観測地点ですが、基本的には心配はいらないようです。この論文は米国の500の小学校のデータを集めたものです。
ペットとアレルギー疾患との関係は複雑です。私がアレルギーを専門として診療し始めた頃は、原則的に家の中でペットを飼育することは厳禁でした。しかしその後0歳時に2匹以上のペットを飼育していると却ってアレルギーになりにくいとの報告もあり、混沌としています。今回紹介する論文はやはりペットの飼育は喘鳴・喘息には悪影響があるとの論文ですが、この論文の中にも年齢の小さいこども(6歳未満)は却って犬の飼育が喘息の有症率が低いことが記載されています。しかしそれ以上になると犬・猫を飼育しているとエンドトキシンが増加し、喘鳴・喘息が増加するとのことです。ペットを捨てることは難しいので、6歳以上ではエンドトキシン、犬・猫の抗原を減らすために、掃除は重要なようです。エンドトキシンとは前回(下記)の農場の牛小屋等に大量に見られる物質で細菌(グラム陰性菌)の細胞膜にある物質です。0歳時に大量に暴露されるとアレルギーになりにくいことが多数報告されています。
An approach to the asthma-protective farm effect by geocoding: Good farms and better farms
農場で育った小児は以前より喘息になりにくいことが報告されています。この論文もその考え方を踏襲するものです。衛生仮説が以前より言われていますが、この学説は今も生きています。
The association between childhood asthmaand adult chronic obstructive pulmonary disease
外国では小児の喘息を長期に渡って追跡調査しています。この論文はオーストラリアでの調査で7年毎追跡し50歳まで追跡しています。その結果小児期に重症喘息であった児は50歳の時点では機能が低下し、COPD(閉塞性肺疾患)に進展するリスクが高いとの報告です。日本ではこのような長期の追跡調査はありません。くろさか小児科アレルギー科では喘鳴児を追跡調査しています。近日中にその途中経過を報告します。
ライノウイルスは喘息発作を最もよく起こすウイルスです。このウイルスに対する反応が喘息患者さんでは喘息ではない人と異なります。このライノウイルスに対する反応と他の刺激(PHA)等に対する反応の違いによって喘息のタイプを分類してみる試みが論文になりました。ただこの検査は一般に行われることは難しく今すぐには役立ちません。しかし将来この方法によって喘息をタイプ別に区別し、治療に役立つ日が来るかもしれません。
Quintupling Inhaled Glucocorticoids to Prevent Childhood Asthma Exacerbations
吸入ステロイドによって現在重症の気管支喘息は激減しました。吸入ステロイドでコントロールしている気管支喘息の患者さんが発作を起こしたとき、吸入ステロイドを増量して発作を抑えようと試みる のは自然な発想です。しかし実際にはそれほど効果が無いようです。吸入ステロイドは今日なくてはならない治療です。しかしその効果はあくまでも発作の予防です。